「青いチョコレート」は、どの様にして誕生したのか?
イノベーティブなプロジェクトをリポート
日本最大の料理レシピサービス「クックパッド」が、2021年に流行るトレンド料理としてバタフライピーを利用した「青いスイーツ」を挙げている。実際にバタフライピーはTVや各種メディアで注目され、2020年にバタフライピーパウダーを利用した「幸せを呼ぶ青いチョコレート」は、ネット販売を通じてクリスマスやバレンタインのギフト市場で販売されると一躍有名なチョコレートとして、ブランド化しつつある。
メーカーである「日本アドバンストアグリ株式会社」が設立されたのは、2006年のこと。社長の辻昭久さんの父親が創業した「ツジコー」(滋賀県甲賀市)は、主に照明器具等の和風の木材を利用したセード製造に携わっているが、1980年代後半からは大手家電メーカー協力企業となり、照明製造組立が売上の主流を占めるようになった。
辻さんは、技術者として外資系の大手コンピュータ会社に勤務していたが、38歳で退職してツジコーに入社した。しかし、リーマンショック後の円高で、大手メーカーのモノづくりが中国など海外に移転し、売上は下降傾向が続いた。
「取引先を増やさないと、中小企業はグローバリゼーションの影響をまともに受ける。また、『事業は川上から川下までやらなければ、会社の成長は見込めない』ことをこの体験で学びました」と辻さんは当時を振り返る。
新規事業を模索する中で将来の成長分野として「植物工場」に着目
「植物工場であれば、ツジコーの強みである照明器具技術のノウハウが生かせる。そう考えて、日本アドバンストアグリ社を2006年に設立しました」
当初、工場ではレタスを育てていたが、露地栽培のレタスとの差別化は難しかった。そこで植物工場ならではの“付加価値が高く、健康にいい、機能性野菜”に絞込みリサーチを重ねる中で、当時日本ではほとんど知られていなかった「アイスプラント」にたどり着いた。辻さんは、本社がある長浜市に近い長浜バイオ大学と共同研究を開始し、ほどなく独自の栽培技術を確立することになる。
中小企業でも世界を相手にしたビジネスを
一方で、植物工場の設計から施工までを自社で行う強みを商品化して提供するサービスも開始していたのだが、現在の植物工場は競争力のある大手メーカーが主流となっており、「中小企業が取組むブームは去った」と語る。
「当社は、常に研究開発型で競争力のある商品作りに取り組んできました。『従来のビジネスだけで満足していても、会社の成長は無い』ことが骨身に染みていたし、サラリーマン時代の外資系企業でのビジネスの経験から、中小企業でありながら世界を相手にビジネスすることを常にイメージしていました」とそのチャレンジ精神は旺盛だ。
東南アジアに生息するマメ科植物「バタフライピー」との出逢い
経営者にとって最も重要な能力は、“運を導く力”だと語る辻さん。その運が花開いたのは、タイやラオスなどの東南アジアに生息しているマメ科の植物「バタフライピー」との出逢いだった。「大きな青い花びらの形が蝶に似ている」ことからこう呼ばれる植物で、古くからその花びらを乾燥させてハーブティーや料理を青く着色させるために使われている。
タイ王室では、バタフライピーのハーブティーは“おもてなしの飲み物”として愛飲されており、また一般家庭では“おめでたい日にバタフライピーを使って青いご飯を炊く”習慣もあるという。この青さは、花びらに豊富に含まれている「アントシアニン」という成分の力で、鮮やかな青い発色を可能にしている。
日本アドバンストアグリ社だけが、「殺菌パウダー」を作る技術を所有
「試行錯誤を繰り返し長年の研究開発の結果、15ミクロンの青い殺菌パウダーにする技術を開発しました。花を煮出したお湯をパウダー化したエキスパウダーと花びらそのものを粉末化した殺菌パウダーがありますが、使用用途によって使い分けが可能です。青い殺菌パウダーついては、当社だけがそれを作る技術を持っています」
2018年、ドイツのフランクフルトで開催された「Health Ingredients(Hi) Europe」に出展したところ、世界の香料・着色原料のトップ企業から引き合いがあったという。EU諸国では地球環境問題への関心の高まりから、有機製品の輸入額は2007年の150億ユーロ(2兆250億円)が、2015年には274億ユーロ(3兆6990億円)にまで増加している。
ビジネスの可能性は世界マーケットに広がる
「当社のバタフライピーの花は、EU/USDA有機認定を取得しています。2022年1月にはバタフライピーを食することがEUで認められるため、この認証後、EUにてビジネスを展開する予定です」と辻さん。EU諸国では、今後益々、食品関連において有機食品の取り扱いが増える事が確実であることを見越し、こう続けた。
「単に天然のバタフライピーの青いパウダーにとどまらず、黄色いウコンパウダーを混ぜることで緑色のパウダーも提供できるようになります。ウコンの量を加減することで多様な緑のパウダーが出来上がります。食は目でも楽しむと言われていますが、当社の可能性は世界というマーケットで大きく広がるとワクワクしています」
独自の技術を磨き、世界のマーケットで勝負をする日が訪れようとしている。
日本アドバンストアグリ株式会社 http://www.adv-agri.co.jp/