植物性乳酸菌の健康飲料「碁石茶(ごいしちゃ)」

イノベーティブなプロジェクトをリポート


世は健康ブーム。「体にいい」をキーワードに、よもぎ茶、柿の葉茶、薬草茶等が人気を集める。このようなブームの中、生産量のほとんどが予約で売り切れるという、知る人ぞ知るお茶がある。「碁石茶」といい、その味と香りを“見える化”することで、「売れるお茶」にしたプロジェクトをリポートする。

植物性乳酸菌の健康飲料「碁石茶(ごいしちゃ)

四国山地に抱かれた山里をふるさとに

高知県大豊(おおとよ)町へは、高知市内から車で約1時間。四国山地の真っただ中にあるこの町が、日本唯一の「秘伝のお茶」=碁石茶(後発酵茶)のふるさとである。
風変わりな商品名は、仕上げの段階で天日干しするのだが、「発酵後に裁断された茶葉をムシロに並べている様子が黒碁石を並べているように見える」ことに由来する。緑茶とは異なる、“ほのかな酸味”とその風味に大きな特徴がある。

秘伝の伝統製法で作る“ほのかな酸味”

「碁石茶」の最大の特色である“ほのかな酸味”は、四百有余年に渡って受け継がれてきた秘伝の伝統製法によるものだという。
収穫した茶葉(元は自生だった山茶2種とヤブキタ)を蒸した後、むしろを敷いた土間に1週間ほど広げてカビ付けを行い発酵させる。次にふたに重石をのせて漬物と同じ要領で、桶に漬け込むこと数週間。この「カビ付け」と「漬け込み」という二段階の発酵を経て、身体によいとされる植物性乳酸菌がたっぷり生まれる。これが自然な“ほのかな酸味”の元となるのだ。
発酵が終わり固まった茶葉は、3~4センチ角に切り分け、むしろの上に一枚一枚ていねいに並べられる。完全に乾燥するまで天日で干すこと約3日。その間、のどかな山あいには、あたかも碁石を敷き詰めたような光景が広がる。

こうして約60日間という長い時間と手間ひまをかけて出来上がる「碁石茶」には、植物性乳酸菌が多く含まれ、その量は世界的に有名なプーアル茶の23倍にも達するという。

しかも、この植物性乳酸菌は動物性のものより強く、体内では他の微生物に負けずに働くことが明らかになっている。

「碁石茶(ごいしちゃ)」ができるまで

生産農家は、わずか一軒にまで減る

「碁石茶」は、江戸時代、土佐藩を代表する主要名産品の一つであった。地元向けというより、山地で貴重な「塩」と交換するための特産品として、険しい四国山地を越えた瀬戸内地方を中心に出荷されたと伝わる。瀬戸内では、お茶として嗜むほかに、「茶粥」の出汁として欠かせないものだった。

明治に入っても、この地の特産品としてあり続けた。だが、昭和になると地域の主要産業であった林業が徐々に衰退すると同時に、過疎化や高齢化が進行。高度経済成長期以降の食生活の欧風化とも相まって、その生産量は減り続け、昭和50年代には生産する農家はわずか一軒になってしまった。

その残った農家が、現在、碁石茶協同組合・二代目代表理事を務める小笠原さん宅である。昔から“胃腸に良い”とされる「碁石茶」を使った茶粥の愛好者から生産を切望され、細々と技術を伝承してきたのだという。

大豊町で地域再生の取り組みがスタート

小笠原さん宅で生産される「碁石茶」は、“伝統ある文化財”として扱われ、予約してもなかなか手に入らない状態だった。(当時の生産量:年間150㎏)そこで、“何とか産業に育てたい”という町ぐるみのプロジェクトがスタートした。「1980年に1軒だった生産者が、2008年には9軒にまで増えました。ですが、日本で唯一の製法から生み出された“ほのかな酸味”とその風味は、見よう見まねで作れるものではありませんでした」と語るのは、現大豊町長の大石雅夫氏である。
さらに続けて、「当時、私は地域再生を担当する課長補佐でしたが、高知大学や高知県の茶業試験場等に相談しながら、農家を一軒一軒まわり、その製造工程を統一することに努めました」と振り返る。

産学連携によって、その成分を検証することで、植物性乳酸菌が世界的に知られているプーアル茶の23倍も含まれていることが実証できたのだという。
均一化することで、「碁石茶」の生産量は増え、次に販路の拡大が課題となった。より多くの人達に飲んでもらうためには、健康に良い飲料というだけではなく、そのものの美味しさを分かりやすく伝える必要があった。

味香り戦略研究所の協力で、味を数値化

「このプロジェクトで大変お世話になっていた高知大学の受田浩之先生(現高知大学理事・副学長)から『碁石茶は赤ワインに似た味がする』と指摘を戴いた。何とかそのエビデンス(根拠)が欲しいといろいろ調べ、たどり着いたのが味香り戦略研究所でした」と大石町長。
「味香り戦略研究所の味覚センサーで、『碁石茶』の味を分析し、この研究所が持っている赤ワインのデータと比べて貰いました。そこで、実に似た味わいであることが数値として確認できました」

この“見える化”した味わいをパッケージにも活用。また類似品対策として特許庁で商標を取得し、販路を広げていくことになった。

味わいの“見える化”

このような長く地味な努力の結果、組合設立当初2000万円程度だった売上が一時1億円を超えるまでになっている。

大石町長は最後に、「碁石茶」の次の人気産品づくりにチャレンジする意気込みを、こう語った。
「今年度から、四国山地の発酵茶の製造技術として文化庁から記録制作等の措置を講ずべき無形の民俗文化財の選択として指定された『碁石茶』の製造技術等について調査を開始する予定です。町が90%出資した株式会社大豊ゆとりファームも碁石茶の製造・販売に参戦し、大豊町碁石茶協同組合の運営も順調です。今後は“ふるさと納税”でも、注目してもらえるような商品づくりを進める予定です」

《お問い合わせ先》
大豊町碁石茶協同組合
高知県長岡郡大豊町黒石343番地  TEL:0887-73-1818
http://goishicha.jp/method/

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