《2皿目》まずい!の科学

そういえば私、「うまい!の科学」という本を書いたんです。あんまり売れていません(笑)←買ってください。

さて、おいしいものにあふれている現代。ただ、おいしいもの以上に気になる?…それは「まずいもの」。
先駆者はどの世界にも大概います。偉大ですね。

「不味い!」本と言えば農大のレジェンド小泉武夫先生のこの本ですね。
「不味い!」小泉武夫(新潮文庫)
同じく小泉武夫先生の本といえば、こちらも。
「くさいはうまい」小泉武夫(角川ソフィア文庫)
好奇心でわざわざ「まずい!」を食べる強者も。
「戦国、まずい飯!」黒澤はゆま(集英社インターナショナル)

■なぜ「まずい!」は魅力的なのか?

・まずい!を排除して、おいしいものだけを味わいたい
・まずい!=毒のシグナルで、回避する知識として学習したい
・まずい!という他人の不幸なリアクションを見たい(脳科学では「他人の不幸は蜜の味」は証明されているとか…)
・雑食性動物は「食物新奇性恐怖(新しい食品を嫌厭する)」と「食物新奇性愛好(新しい食品を好む)」の食行動を持ちますが、前者に遭遇する機会は安全・安心の環境下ではめったになく、後者の方が現代ではウエイトが大きいのかもしれない。
 ⇒外国の料理、ジビエ、希少部位の肉、激辛料理、昆虫食…
このようなところでしょうか。

今回の伏木亨先生のインタビューでも登場した「飽き」というキーワード。
この感覚も「まずい!」につながっているでしょう。

なんにせよ「まずい!」はちょっとした必要悪のような、
はたまた人が生きるための強かな部分と負の部分が入り混じった人間の性が人を惹きつけるのかもしれません。

■世界一まずい組み合わせ?

以前、探偵ナイトスクープなどで放映された”世界一まずい食品の組み合わせ”として、数の子に赤ワインが紹介されました。
まずい!訳は、メルシャンの研究によると、赤ワインに含まれる第二鉄イオンが油脂を酸化し不快臭を口内に発生させることで、まずい!を作り出します。魚介類に含まれる不飽和脂肪酸は特に酸化されやすいためでもあります。

これは鉄棒を触った後や硬貨を触った後に手のにおいが金属臭がするのと同じで、手の皮脂が金属によって酸化されて出来たにおいなのです。
つまり金属はにおいがしないのに、勝手にそれが金属臭と思い込んで学習しているのですね。

金属イオンによる酸化は、応用すれば食材が保存などで酸化したときにどのような劣化臭がするかなどが予想できます。またワインであれば金属類の除去や保存タンクに注意すれば魚介類に合う赤ワインを作ることができます。おいしいものを作るのに専念するのも良いですが、料理がまずくなる要因を考え、回避する手段を編み出すのも非常に大事なわけです。
まずい!料理にこそおいしさのヒントが隠されていますので、ぜひとも興味を持っていただきたいと思っています。また遺伝的にまずく感じてしまうもの、食嗜好形成の中でトラウマや疾患でまずく感じるようになるものなど要因はさまざまです。

■おいしいもの・まずいもの

おいしい・まずいの概念が重要視され、評価として用いられているということは、そこが豊かな国で食文化が発達しているという証でもあります。僕らはこの街がまだジャングルだった頃から(←)、その概念はごく薄く、まずい=毒で食べられないというもので、豊かになるとともにどんどんと食品の優劣ができたのでしょう。

ではいつかは、うまい!ものだけの世界になるかというと…なるかもしれません。
今後、食のオーダーメイドが研究されつづけ、自分の嗜好性やそのときの気分などがAIで予測、そして凄腕のシェフを模倣した自動調理ロボットがあなたの食事を提供する。もちろんペアリングや栄養バランスも完璧。そんなとき、まずい!というものはエンターテインメント性を携えて存在しているのかもしれません。

(文・髙橋貴洋)