《3皿目》もち食べた?

年末にもち米を一晩水に浸して、次の日蒸して、さあ餅つき! …というものなかなか物珍しいものになりました。都内でも町内会で集まって子ども餅つき大会など開催されますが、ノロウイルスなどの胃腸炎の流行、新型コロナなども懸念され実施しないところが多いようです。されど、正月に餅を食べる文化は残っており、何らかの形で食べたのではないでしょうか。

餅つきといえば月のウサギのようにぺったん、ぺったんというイメージですが、その前にいろいろコツがいるみたいです。餅をつく際に杵や臼が冷たいと、餅がすぐ冷えてうまくつけなかったり、もち米の量が少ないと、熱量が減るために硬くなってしまう…臼の大きさや素材(最近は大理石なども…)などで蓄熱が異なります。

ということで我が家は臼を温めるにはコレ。低温調理機の出番です。

いやあ伝統とフードテック(?)のコラボですね。炊きあがりを気にせずに湯を張り替えなくてもよくて楽ちんです。外寒いですからね。

もちのそもそも

さて、餅のおいしさの評価項目としては粘り・コシ・伸びなどがポイントとなるようです。これもまた餅の温度が左右しますので官能評価や機器測定をするにしても気をつかうジャンルの食品なのです。まさに餅屋のモノです。

ただ現代では、のどに詰まらない飲み込みやすい餅、粘りが少なく噛み切りやすい餅、はたまた鍋に入れても溶けづらいなど様々な用途もあるため、適材適所になるのではないでしょうか。
今年の我が家の餅は少し蒸かしすぎてあまり搗かなかったためか、例年より柔らかく伸びが少ない餅となってしまいましたが、これはこれでサクッと食べやすく、むしろ私はこういうのが好みかなぁと感じました。

ところで、もち米の稲穂は見たことはありますでしょうか?こちらは島根県のもち米(ミコトモチ)です。ぱっと見ほとんどうるち米と変わりませ…いやちょっと実の先がまあるいかな?

他にも見分ける方法は、うるち米ともち米を近くで栽培してしまうと交配してしまうので田んぼを離したり、植える時期をずらしたりするということをポイントとして判断すると良いかもしれません(よくもち米かと思ったら飼料米だったりしますが…)。

一般的にはうるち米のことを水稲(すいとう:水田で作られる)とも呼んでしまうことが多いですが、それに対して陸穂(おかぼ・りくとう)という言葉があります。そう、もち米は畑で作られることもあるのが特徴です(うるち米・もち米には水稲品種と陸穂品種があります)。そして陸穂栽培の技術は河川が乏しくとも米を作ることが出来ますので、気象変動が激しい昨今、注目される可能性もあるようです。

水稲・陸穂のイネ品種についてずらっと見たい方はこちらが便利です。
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 次世代作物開発研究センター イネ品種データベース検索システム  https://ineweb.narcc.affrc.go.jp/hinsyu_top.html

進化するもち文化

さて、年末に岩手県は一関にお呼ばれいただきました。

ちなみに一関は牛肉などでも有名です。温泉はノーチェックでした(惜しい…)。

そこでは岩手県南技術研究センターと商工会が開催した「第226回産学官イブニング研究交流会・一関市ものづくり産業振興事業[一関市農商工連携セミナー]」に来賓として呼ばれ、「味と香りのマーケティング戦略」の講演をしてきました。コロナも下火で、ホテルで開催できるのも久しぶりなのか、席数制限はあるものの大勢の方がいらしてくれました。かくいう私も2年近くオンラインセミナー対応でしたので、生のヒトのリアクションに飢えていました。何か一つでも頭に残る話ができていたらなあと。ご依頼お待ちしております(←)。

そして岩手日報の一面に翌日載るとか恐れ多い(笑)

2021年12月16日 岩手日日新聞

はてさて、出張の楽しみのお昼で出会ったのが自来也さんの「ふくべもち」です。ごぼう、にんじんなどをすりおろして、牛ひき肉を加えた甘しょっぱい味わいの具とともに、丸もちを食します。

自来也さんの「ふくべもち」

「ふくべもち」は本来牛肉ではなく囲炉裏で燻製したドジョウを使うとのこと。
大将が子どものころから食べていたものをお店で出していると女将さんが紹介してくれました。ごちそうさまでした。

調べてみれば一関は「もち文化」が有名で、その食し方は独自の進化を遂げているのだそうです。以下のサイトから一部気になる文を抜粋すると「季節の節目など年間60日以上ももちを食べる習慣が庶民に広まり、「もち暦」が作られるまでになった。」…もち暦っ!?
https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202005/202005_06_jp.html

一関の観光サイトに至っては「もちに始まり、もちに終わる」という意味深なキャッチコピーが斬新です。
https://www.ichitabi.jp/feature/special/mochi/index.html

硬くならない餅

餅の弱点として、でんぷんが老化して硬くなる点があります。
これを防ぐには糖類の添加や、でんぷんをある程度切断する酵素処理などで数日は柔らかさをキープできます。

ところで岩手県にはウルトラファインバブル水という技術を持っている企業があります。
バブルは空気でも窒素でも良いのですが、身近な例だとシャワーだけで油性ペンの汚れが落ちたりするのも似た技術です。このウルトラファインバブル水を餅に練り込むと、なんと常温でも柔らかく食べることのできる餅を作れるのだそうです。つまり無添加でそのようなことが実現可能なのです。一関は餅文化の最先端を突っ走っていました。

「もち」はおいしいワード

そしてもちには欠かせない表現のオノマトペ。“おいしさを想起する”オノマトペとして「もちもち」「もっちり」などは上位にランクインするワードです。もちは主食ですから味は濃くありません。濃くないためにたくさん食べられるわけです。大雑把に言うと味はあまりしないため、食感の感覚のウエイトは非常に重いというわけです。

では、いろんな食品に「もち」をつけるとおいしそうに感じるかやってみましょう。
もちピーマン、もちハバネロ、もちくさや、もち酒盗、もち山羊汁、もちシュールストレミング…なんとなく人を選びそうな食材もおいしそうになりますね?

髙橋なりにもちで始まり、もちで終わりました。
本年も、もちっとどうぞよろしくお願いいたします。

(文・髙橋貴洋)