イスラエルで唯一バッタの昆虫食に開発をするスタートアップ企業Hargol

Food Tec Info

【ポイント】

・ユダヤ教の戒律のなかで唯一許された昆虫食

・昆虫食は世界各地で導入が始まっている

・バッタ生産に必要な資源は、牛に比べて極めて少ない

「虫は食べ物じゃない!」
「あの形を食べるのは無理…」
「そもそもバッタに栄養あるの?」

この記事は、このような疑問や意見に応えるものです。
私たちは、虫という生き物を食べ物とはあまり考えていません。
もし食べるとしたら、それは鳥や野生動物を想像するのではないでしょうか。

しかし、イスラエル企業Hargol(ハーゴル)は、バッタを材料に高品質のプロテインパウダーを製造して、世界に広げようとしています。

原料がバッタのプロテインパウダーと聞いてどうでしょうか?
「よし!ぜひとも買ってみよう」と思う人が少数だと思います。

ですが、ここで少し想像してみてください。
もし、高品質で栄養価高く、持続可能性の高いプロテインパウダーがあったら…?

最近は、タンパク質不足を解消するため、あちこちでプロテイン入りのお菓子が売っています。
そこにもし、バッタのプロテインパウダーを使ったエナジーバーがあったら?
見た目は単なるエナジーバー、栄養価が高く、持続可能性に優れた商品。しかも安い価格で…。

数年後、もしかしたら私たちは、そのような商品をコンビニで目にしているかもしれません。

この記事では、未来の「昆虫食」の可能性に向かって動き出しているイスラエル企業Hargol(ハーゴル)について解説します。

《目 次》

  1. バッタから高品質なプロテインパウダーを開発
    ●イスラエル企業ハーゴル
    ●資金調達について
  2. 唯一食べることを許された虫
    ●バッタ牧場
    ●ハーゴルのCEOが見る未来の昆虫食
  3. 世界の昆虫食
  4. 昆虫食に立ちはだかる壁
  5. 【まとめ】昆虫で魅力的な商品開発を

バッタから高品質なプロテインパウダーを開発

最初に、バッタを材料にしたプロテインパウダー、それを開発したイスラエル企業Hargol(ハーゴル)について解説します。
まず、Hargolが生産するバッタのプロテインパウダーは、飽和脂肪とコレステロールが含まれていません。

そして、必須アミノ酸を含むタンパク質が含まれる高品質な製品です。

ちなみに、バッタは大豆よりも多くのタンパク質を含んでいます。バッタが70%以上、大豆が40%前後といわれます。
これの数値だけでも、バッタのほうが効率的といえるのではないでしょうか。そして、大豆を育てるには広大な土地と肥料、農薬が必要です。

それに対して、バッタの場合はどうでしょうか。Hargolが注目されるのはこの部分です。

商品づくりだけでなく、その材料を製造する仕組みが独特です。

イスラエル企業ハーゴル

Hargol(ハーゴル)のビジネスは「世界の食糧問題」と「農場の生態系」という2つの要素を掛け合わせ、持続可能性が高い高品質なプロテインパウダーの開発と生産に成功しています。

従来は、食料の生産量を上げるために、牧場や農場を広げていく必要がありました。

しかし、開拓を広げれば広げるほど、もともとあった生態系が破壊してしまいます。

とはいえ、食糧の生産量を増やさなければ、食糧不足は解決できません。このようなジレンマがあったのです。

Hargolは、その2つを同時に解決するため「バッタ農場システム」を開発。
バッタに必要なエサを農場内で生産するという新しい仕組みを実現しました。
この仕組みが世界的に注目されています。

資金調達について

Hargol(ハーゴル)の開発した、栄養価の高いバッタの育てる「バッタ農場システム」に海外のベンチャーキャピタルが投資を始めています。

2020年2月、HargolはシリーズBの資金調達でSirius Venture Capital(シンガポール)とSLJ Investment Partners(オランダ)から300万ドル(約3億円)の調達完了したと発表。

この資金調達で、Hargolはさらに事業を拡大し、バッタのプロテインパウダーをペットフードや家畜のエサなど普及させやすい分野に進出を計画しています。

ペットフードは、人が食べるものではないため、材料に粗悪品を使うのが当たり前になっている部分があります。
それをバッタのプロテインパウダーに置き換えることを検討しているということです。

唯一食べることを許された虫

ところで、バッタはユダヤ教の中で、唯一食べることが許された昆虫というのはご存じでしょうか?

私たち日本人は馴染みがありませんが、イスラエルではユダヤ教が宗教として信じられています。
その教えの中に、人が口にするべきものを規定したユダヤ教の教え「Kosha(コーシャ)」があります。
その中に唯一含まれる昆虫がバッタなのです。

《メモ》

語句説明:Kosha(コーシャ)

ユダヤ教に教えの1つで食べ物に関する規定。その教えは食品のみならず、サプリメントや調味料など人が口にするもの全般にわたります。
アメリカではKosha認定された食品が最も安全であると評価がされているそうです。

抜粋引用:JTB総合研究所

《聖書、コーランにも書かれていたバッタ》

Kosha(コーシャ)で食べることを許されているバッタ。

それだけでなく、イスラム教の経典コーランの中でも、預言者ムハンマドがバッタを口にしていたという記述があるとされています。
さらに、新約聖書では洗礼者ヨハネが、蜂蜜と一緒にバッタを食べたとされています。
つまり、バッタはユダヤ教、イスラム教、キリスト教の3つの宗教で食べることが許された唯一の昆虫ということになります。

バッタ牧場

Hargol(ハーゴル)が運営しているバッタ農場では、従来の家畜よりも数十倍優れた効率性があると、各種メディアに説明しています。

それによると、バッタの飼料は牛よりも最大20倍効率的であり、温室効果ガスの排出量を98.8%削減、消費する水は1000分の1に減らせるそうです。

しかも、バッタを飼育するための土地利用は、牛と比較して1500分の1と少なく。廃棄物がゼロに近い農場を実現できたと発表しています。

バッタの飼料は、無農薬で化学肥料を使わずに栽培したシバムギ(wheatgrass)です。

Photo by Jesson Mata on Unsplash

シバムギは、自社の屋内垂直農法で栽培しています。しかし、シバムギ栽培に維持とコストがかかるため、将来的には乾物飼料などの代替飼料で育てることを計画中だそうです。

乾物飼料で飼育ができた場合、新鮮な草より安く、コストがわずか3%。

さらに、手作業によるメンテナンスが50%少なくて済むとHargolの創設者タミール氏は、メディアにコメントしています。
すでに、乾物飼料で育つバッタも育てており、2022年にはバッタ農場に乾燥飼料を本格導入する予定と発表しています。

ハーゴルのCEOが見る未来の昆虫食

動画でタミール氏は「ベジタリアンやヴィーガンの食生活をしたとしても、農作物栽培の過程で農薬が何万匹の昆虫を殺している。 そして、農薬で死んだ昆虫は、他の動物に食べられる。事実として環境を傷つけている。しかし、昆虫を育てるなら何も殺さない。 私たちは殺していた昆虫を食べるのだから、昆虫農場なら効率的で持続可能性が高い」と述べています。

今後は、消費者に昆虫をベースにした食品の利点をアピールして、顧客の育成と昆虫食の普及を進めていく必要があると分析もしています。 Hargol(ハーゴル)が、バッタを高品質のプロテインパウダーにしたのは、原料として使い勝手を優先したためでもあります。

つまり、多くの消費者が想像するような、虫をそのままの姿で食べるのではありません。
原料として商品に混ぜて、形が全く違うものになるということです。

世界の昆虫食

2019年の調査では、アジア、アフリカ、ラテンアメリカ、オセアニアなどの地域で昆虫はタンパク質として食べられているそうです。 しかも、地域によっては馴染みのない食材でありながら、導入が進んでいるそうです。 食料となっているのは、カブトムシ、イモムシ、ミツバチ、アリ、コオロギ、バッタなど2100を超える昆虫です。 2017年の調査では、バッタは世界で4番目に消費されている昆虫とされています。

ここで気になるのは、その食べ方ですが、そのままの虫の姿で食べるのではありません。食料になる昆虫はタンパク質の粉末状にしてある場合は多いそうです。

コオロギパン

Hargol(ハーゴル)のバッタのプロテインパウダーと同様に使い勝手を考慮したためです。

理由はそれだけでなく、食品になるまでの過程で発生する虫の殻など、廃棄物の抑制も配慮しています。 特に外食産業などで昆虫をそのままの材料にすると、料理する度に大量の廃棄物が出て、問題になるでしょう。

昆虫食に立ちはだかる壁

Hargol(ハーゴル)のような企業にとって障害となっているのは「昆虫食への偏見」です。

昆虫食は、栄養や持続可能性が高いという利点があります。しかし、多くの先進国では昆虫食を食べることに魅力を感じない傾向があります。 ベルリンを本拠地にするスーパーマーケットチェーン「VEGANZ(べガンツ)」が7カ国2600人の買い物客を対象に調査を行いました。

その結果、全体の30%以上の人は、菜食主義やフレキシタリアン(準菜食主義)の食生活に変えることには前向きでした。 しかし、動物肉の代わりに昆虫食にするかという質問については、73.1%が「食べない」と答えたそうです。

Photo by Jeremy Bezanger on Unsplash

持続可能性や地球環境に関して意識は高いものの。実際に食生活を昆虫食にシフトするには、まだ時間が必要かもしれません。 そのため、昆虫食を開発、製造している企業が市場でシェアを獲得するためには、消費者の認識を変えていく必要があります。

Hargol(ハーゴル)創設者タミール氏は以下のようにコメントしています。

1980年代、北米やヨーロッパで生の魚を食べることは受け入れられなかった。

でも今日では、みんな寿司を食べますよ。

Photo by Ben Lei on Unsplash

【まとめ】昆虫で魅力的な商品開発を

Photo by Sincerely Media on Unsplash

バッタを原料にプロテインパウダーを開発したイスラエル企業Hargol(ハーゴル)。
食糧問題と環境問題の2つの問題を解決できるかもしれない「バッタ牧場」。しかし、昆虫食に対して、ネガティブな印象を持つ消費者が多いのが現実です。 これを変えていくには、昆虫を原料にした魅力的な商品を開発の必要になるでしょう。

それが消費者の関心を集め、昆虫食に対する偏見の壁を取り払うことにつながるはずです。 日本でも無印良品が「こおろぎせんべい」を販売して、注目を集めました。しかも、しばらくは在庫切れ起こすほどの人気があり、今でも販売しています。 コオロギであっても、せんべいの形になれば、おいしくいただける実例ではないでしょうか。

個人的には、昆虫のプロテインパウダーでコオロギハンバーグやバッタナゲットなど料理にしたら、昆虫食の抵抗が薄れるのではないかと思います。

《参考記事》
https://nocamels.com/2021/01/food-startup-hargol-grasshopper-protein/
https://nocamels.com/2020/04/grasshopper-protein-food-tech-hargol-raises-3m/
Edible Insects as a Protein Source: A Review of Public Perception, Processing Technology, and Research Trends