《4皿目》土のめぐみ
だんだん白衣が似合わないと言われ
うちの会社にはさまざまな食品等が毎日ラボにやってきます。お水からお酒、お菓子に薬、果ては昆虫食からクレーム品、さらには新しい家電調理器具の効果の調査などなどでおかげさまで成り立っています。
分析をする側にとってはいかに正確に素早く適切な処理で分析・解析作業を行うことが大事ですが、できることならそのサンプルの性状を現地で見て聞いて5感で感じ取るというのが分析の初手としては重要だと思っています。
…ということでやってまいりました市川三郷町
ってなんもないやーん。今日はこの土の調査にきました。
ここの土の種類は「黒ボク土」といいます。地元では通称「のっぷい」。この黒ボク土という土は日本の国土の約50%を占めていると言われています。そのへんの土じゃあないか、と思われるかもしれませんが、世界レベルで見ると殆ど見られない貴重な土なのです。
この黒は腐食といって有機物によるもの。そして火山灰(このあたりは八ヶ岳由来)による構成で成り立っています。有機物が多いということは肥沃ということです。そして非常に柔らかく、土の硬さを硬度計を差し込んで調べたりするのですが、ここの土は柔らかいため、一般の硬度計では測定できません。
ですので、こういった測定器(貫入式土壌硬度計)でズブズブと差し込んで調べないと土の硬さを測定するのが難しかったりします。
手でギュッとしても程よくサラサラ、割り箸を差し込むとズブズブと入っていきます。良い土の3大要素の2つ、物理性・生物性が非常に良い土と言えます。
弱点もあります。酸性に偏るとアルミニウム化合物が可溶化し、植物の根を傷つけたり、植物の栄養素であるリン酸を固定化し吸収しづらくしてしまいます。そこでリン酸を補うような肥料を加え、土壌pHを調整すれば、良い土の3大要素の最後の一つである化学性が整い、植物にとってベストなコンディションを作ることができます。
のっぷい農産物といえば
さて、この通称「のっぷい」と言われる土で育てた農産物の代表作とも言える「大塚にんじん」というものがあります。たまにテレビなどでも話題になるのですが、まだまだ知られていないにんじんです。
では写真をどうぞ。
…にんじんってこうやって掘るんでしたっけ?
あ、とれ…
ながーーーい!という人参なのです。写真は11月ごろの初物で細いですが、冬にはもっとしっかりした姿になり、100cm以上になるものも。
この長いにんじん、群馬の国分地区で栽培されていた国分鮮紅大長(こくぶん せんこう おおなが)という品種を、「のっぷい」の土で栽培するとこれほど長く成長するのだそう。
肝心の食べた感想は…普通のにんじんの風味ではなく、紅茶、もしくはレモンティーを想像するような香りと甘さが特徴だと私は思っています。面白いことに、このにんじんの種もそのような匂いがします。爽やかな香りですのでデザート類にも活用できると思います。初めての方はぜひとも生で。香りがフレッシュですので、少しにおいの落ち着いてきた熟成した合わせみそで食べると、トップノートとベースノートの調和が最高です。
大塚にんじんの最大の弱点は長くて輸送費がかかってしまうこと。スーパーでは長すぎるので裁断されてしまったりするのですが、やはり1本のままがカッコイイですよねー。2-3月くらいまで出荷されていますので近くにお立ち寄りの際はぜひ大塚にんじんをゲットしてみてください。
大塚にんじんに限らず、「のっぷい」の土でさまざまな農産物を作っています。それらの詳しい味分析やのっぷいの土壌分析などはこちらを御覧ください。
https://www.mikaku.jp/news/20210329.html
大塚にんじんを調理する。※但し、ミシュランビブグルマン3年連続受賞「清澄白河O2」の大津シェフが
大津シェフは意外と気さくなところが伺えます。
持つべきは友人。彼はにんじんを持っていますが…やっぱり長くないとこういうことができないんですよね。ね! みなさんも持ったらやりますからね。にんじんの呼吸とか、にんじんソーシャルディスタンスとか…。
ということで長―いにんじんをどうしてもスープとかにしたくなく、素材を味わってほしいという、私のわがままを具現化してくれたレシピがこちらです。
が、まだこちらは動画撮影中。ちらっとお見せするだけで申し訳ありません。
その他、のっぷいの土で育った甘々娘(とうもろこし)、レインボーレッドキウイ、大塚ごぼうを使った新しい中華料理“ヌーベルシノワ”の切り口で表現してもらいました。実はこれらの素材の組み合わせは味覚センサによる味分析の結果から素材の相性を予測し、候補リストからピックアップして作成してもらっています。さらっと書きましたが、これ世界初の試みでしたね。違和感なく使いこなす大津シェフはさすがだと思います。
これらの完成した動画は3月末に公開致しますので、ご覧になって「のっぷい」農産物に興味を持っていただければと思っています。
(文・髙橋貴洋)