《3杯目》酒ならなんでも
「ジンがお好きなんですね」「なぜジンが好きなんですか」「日本人でジン好き、珍しいですね」「どのジンが1番好きですか」「えっジンのボトルを入れるんですか」
「毎日」とは言わないまでも「毎週」と「毎日」の間の頻度ぐらいで飲み歩いていると、最近バーやカウンターに坐るせいもあって、だいたい上のようなコメントや質問を頂戴することになる。
それぞれの問いにそれなりの答えはあって、順に「ジンも好きです」「美味しいし面白いし流行りだし」「日本でも男性は女性にカクテル飲ませるの、好きじゃないですか」「お気に入り多すぎて全部1番。『今日の推し』ならこれ」「誰もダメって言わないし」
万事億劫で気鬱を誘うコロナ禍の空気だが、バーになら出かけたくなる。寝巻きじゃいけないから一応それなりの身なりをする。今日は何を飲もうか。カクテルで行こうか、爽やか系?甘い系?重い系?複雑系?それともあの新しいジンを試してみようか(初めてのジンは必ずストレートでまず少し、ロックにしてソーダで割るという順)。食前なら、その後何食と合わせようか。あるいは今日は何食だから、その食前ならこれにしよう。食後酒で行くなら「今日はあと1杯だけにしよう」「〆はやはりドライマティーニ」とかとか。
確かにジンは好きだ。「薬臭い」と言われる気付け薬なみの効用のある奥深さを持ちながら、初心者に優しい敷居の低さゆえに新しい味や香り付けに挑戦する自由度が高く、一気に日本でも百花繚乱の銘柄急増(既に200超)。度数が高いので、飲み方薄め方次第で身中の臓へのインパクトを加減できる。ボタニカルの誘う嗅覚への刺激は何より蠱惑的。カクテルの作り様や混ぜ様によって色彩や反射や分子結合のさまは、幻覚を与えるほどの視覚効果も生む。本物のバーテンダーなら、語りも指も選択もクラフトマンシップもすべてが極上。
とはいえ、ジンだけが私を誘惑してやまぬというわけでは決してない。一昔前には空前絶後のクラフトビールの流行が世界を席巻したし、ワインもウイスキーも世界中に愛産家・愛好家を増やしてきたように私もその流行や愛飲の端くれに、いつも、いつでもそこに居た。ダメ押しながら、私のDNAには何世代にもわたって飲み尽くしてきた焼酎因子が刷り込まれている。
もう、おわかりだろう。酒飲みにとって、実は酒なら何でもいいのだ。