山形大学 工学部機械システム工学科 古川英光教授
日を増すごとに活発になる「食を科学する」取り組み。この視点で色んな研究室を紹介する。
食べ物のデータ転送!未来食3Dフードプリンタの巻
昨今の3Dプリンタは細かい部品から人間の歯、その日のうちに作られる家まで様々な分野で活躍を見せているのはご存知だろう。今回は食べ物を3Dプリンタで作り出す技術の第一人者である山形大学古川英光教授にそのお話を伺いました。
(インタビュー・文:味香り戦略研究所 髙橋貴洋)
―古川先生とは以前、NHKの番組でご一緒して「大トロを3Dフードプリンタで作る」企画で、見た目と造形を古川先生、大トロの味を当社で担当させていただきました。なぜそのような研究を始めたのでしょうか?
「はじめは北海道大学で高強度ゲルの研究を行っていたのですが、ゲルを使ったモノづくりをするため山形大学にやってきました。ある日、学生と学食で話していて紫外線を当ててゲルを固めたらいろんな形のゲル、血管とかも作れるよね! と思いついて、その日のうちに試してみたら簡単にマカロニのようなゲルができたんです。この装置の名前を2009年に3Dゲルプリンタと名付けました。ただ3Dプリンタの概念はすでに世界にあり研究がされており、さらに日本ではまだマイナーで、なぜそれでわざわざ食品をつくらなきゃならないのだと言われていました。」
―まさかの13年ほど前からそのような研究をされていたのですね。
「転機が訪れたのは2012年に3Dプリンタが海外からやってきて日本でも普及し始め、「3Dフードプリンタ」も注目され、研究費も付くようになってきました。しばらくすると3Dプリンタブームを聞きつけて、やってきたのは地元の米沢いただきます研究会の方々でした。この技術を使ってなにか食べ物を作ろう! となったのが「3Dフードプリンタ」の研究のきっかけになったのです。実際に料理人の方などが3Dプリンタを操り、商品化まで漕ぎつけています。」
米沢いただきます研究会の活動報告:http://swel.yz.yamagata-u.ac.jp/wp/archives/category/itadaki
―実際に作られたものを見せていただけますか?
―一般の方々でも気軽に使用できる機械だとは思いませんでした。
「そうですね。こういったデジタル技術は敷居が高く感じてしまいますが、思ったより簡単で、データ化してしまえばシェアもできますので世界が変わるのではないでしょうか。例えば遠く離れた家族との夕食をシェアなども可能になるかもしれません。」
―お米も作れるとは驚きました!
「そうなんです。酒どころの山形ですから米を削るときに出る米粉の再利用の研究で、「アルファ化米粉」というものを同大学の西岡先生が作っていました。それを使ってプリンタで作っています。米粉から米を再構築すると聞くと、無駄なことをしているようですが、食べ物の粉体は長期保存が出来ますので、さまざまな粉体を作ればフードロスの解決につながります。」
―3Dフードプリンタの今後の進化はあるのでしょうか?
「実際にプリントするときの時間の超高速化、不均一さをわざと出すことでリアルな食品の再現なども研究しています。さらに機械を使ってフードをデザインする3Dフードプリンターデザイナーのような新しい職業が生まれるかもしれませんね。例えば半分サーモン、半分マグロのような刺し身を作ることも可能になってくるでしょう。それこそ原料の時点で栄養やアレルゲンなどを考慮しておけば介護食や病院食などにも活用できます。」
「人のためにテクノロジーでモノを優しくしていくというのが我々の研究の究極だと思っています。」
―本日はありがとうございました。
インタビューを終えて
テクノロジーや研究が消費者に直結しない障壁の高さを併せ持っていることは多々ありますが、地元の方々とも協力し人に寄り添った研究をされている先生の人柄を窺えました。そして3Dフードプリンターデザイナーは近未来の新しい職業になりそうだと実感しました。
《PROFILE》
古川 ヒデミツ(英光)先生
Hidemitsu Furukawa
山形大学 大学院理工学研究科 機械システム工学専攻 教授、理事特別補佐(研究支援)、学部長特別補佐(研究)、やわらか3D共創コンソーシアム会長。
専門分野は機械工学分野、材料化学分野、物理学分野、科学教育・教育工学分野、3Dゲルプリンター、3Dフードプリンター、ゲル光学・ゲル力学・ゲルロボット学と多岐にわたる。
1968年東京・大田区生まれ。フード・メディカル・ゲルの3D/4Dプリンティング、やわらかモビリティ、ソフトマターロボティクスの社会実装を狙う機械工学者✕ソフトマター科学者。ソフトマター(高分子ゲル・ゴム・プラスチック・食品)やハイブリッド材料の3Dデジタル製造を強化する研究、先端技術を社会実装する研究、3Dプリンターを教育に活かす研究で、高付加価値と持続性の創造をローカルからグローバルに展開。1996年 東工大・物理学専攻で博士号。