糖度が高いトマト品種を作るゲノム編集技術を開発

日本の研究.com 名古屋大学/神戸大学/筑波大学/理化学研究所

~特別な栽培技術を必要とせず、果実の大きさをそのままに、 甘いトマトを収穫可能~


国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の白武 勝裕准教授らの研究グループは、神戸大学、筑波大学、理化学研究所との共同研究で、トマトにおいて、葉から果実への糖の転流を制御している「インベルターゼインヒビター」をコードする遺伝子を、ゲノム編集注 1)技術により機能抑制することで、植物体の成長、果実の大きさ、糖以外の成分を変えることなく、糖度が高いトマト品種を作出する技術の開発に成功しました。

高糖度トマトは消費者に人気が高く、高糖度トマトを消費者に安く、安定的に届けることが求められていますが、高糖度トマトの栽培には高度な灌水管理技術が必要とされること、そして慣行栽培より果実の大きさと収量が著しく低下することが問題でした。

本研究では「インベルターゼインヒビター」遺伝子をゲノム編集により機能抑制することで、特別な栽培技術を必要とせず、果実の大きさをそのままに、果実糖度を上げることに成功しました。
本研究で開発した技術により、安定的に、安くて甘いトマトを消費者に届けることができるようになることが期待されます。
本研究成果は、2021年11月2日付国際科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。
本研究は、2014年度から始まった内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)次世代農林水産業創造技術」及び日本学術振興会「科学研究費補助金」の支援のもとで行われたものです。

ポイント

  • 高糖度トマトは消費者に人気が高いが、果実が小さく収量が減ることが課題。
  • ゲノム編集技術を使い、インベルターゼインヒビター遺伝子を機能抑制することで果実の大きさをそのままに、トマトの果実糖度を上昇させることに成功。
  • 特別な栽培技術を必要とせず、果実が大きく、収量が減らない高糖度トマト生産が可能となる。

研究背景と内容

日本の野菜生産額 1 位の品目はトマトであり、その中でも高糖度トマトは消費者に人気が高く、高糖度トマトを消費者に安く、安定的に届けることが求められています。高糖度トマトの栽培では、高度な技術を必要とする灌水管理や灌水を自動化するための栽培システムが必要なこと、果実の大きさが小さくなり、収量が大幅に減少すること(場合によっては果実の大きさや収量が慣行栽培の半分以下になること)が課題となっています。本研究では、ゲノム編集技術を用い、果実の大きさが小さくならず、特別な栽培管理を必要としない、糖度が高いトマト品種を作出する技術の開発に成功しました。

トマトをはじめとする植物は、葉で合成した光合成産物をスクロース(グルコースとフルクトースが結合した二糖)の形で果実に転流します。果実ではスクロースがインベルターゼという酵素によりグルコースとフルクトースに分解され、インベルターゼの働きで果実のスクロース濃度が低く保たれることで、葉から果実へのスクロースの転流が続きます。このインベルターゼの働きを抑制するのが、インベルターゼインヒビターです(図 1)。

本研究では、インベルターゼインヒビターをコードする遺伝子を、ゲノム編集技術を用いて機能抑制することにより(図 2)、インベルターゼの働きを維持し、葉から果実へのスクロースの転流を高め、トマト果実の糖度を上昇させることに成功しました。本研究では、ゲノム編集技術として、通常の CRISPR-Cas9 注 2)とその改変型で神戸大学が開発した Target-AID 注 3)を用いました。

図 1.植物において葉で合成した光合成産物である糖が果実に転流して蓄積するメカニズム
図 2.ゲノム編集により生じたインベルターゼインヒビター遺伝子の変異

開発したゲノム編集トマトは、特別な栽培管理を必要とせず、慣行栽培でも果実が高糖度化し、植物体の成長や果実の大きさは元となった品種(原品種)と同じでした(図 3)。ゲノム編集によって、予期せぬ果実成分の変化が起こっていないかを調べるために、果実の成分をメタボローム解析注 4)により調査したところ、糖以外の成分は大きく変わっておらず、原品種とほぼ同じであることが分かりました。さらに、ゲノム編集トマトの全ゲノム塩基配列を解読したところ、ゲノム編集でターゲットとしたインベルターゼインヒビター遺伝子以外の変異(オフターゲット変異)が無いことも分かりました。

図 3.インベルターゼインヒビターゼ遺伝子のゲノム編集トマトと原品種‘すずこま’の植物体、果実、糖含量

成果の意義

高糖度トマトの栽培では、高度な灌水管理技術が必要とされ、慣行栽培より果実の大きさと収量が著しく減少することが問題でした。本研究で開発した技術を使うことにより、特別な栽培技術を必要とせず、果実の大きさをそのままに、糖度が高いトマト品種を作出できるため、安定的に、安くて甘いトマトを消費者に届けることができるようになることが期待されます。

用語説明

注 1)ゲノム編集:
生物の設計図である「ゲノム」の中のターゲットとする塩基配列を特異的に変化させる技術。
注 2)CRISPR-Cas9:
2020 年のノーベル化学賞の発見となったゲノム編集技術のひとつ。ターゲットとするゲノム塩基配列の相補鎖の RNA 配列を使ってターゲットとするゲノム塩基配列を認識させることにより、従来の技術より格段にゲノム編集を容易に実施することが可能となった。
注 3)Target-AID:
神戸大学が開発した CRISPR-Cas9 の改変技術。CRISPR-Cas9 ではゲノムの 2 本鎖DNA を切断して編集を起こすが、Target-AID では 2 本鎖 DNA を切断せずに塩基を置換して書き換える。
注 4)メタボローム解析:
生物に含まれる成分(代謝物)を網羅的に解析する技術。

論文情報

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Functional Disruption of Cell Wall Invertase Inhibitor by Genome
Editing Increases Sugar Content of Tomato Fruit without Decrease Fruit Weight
著者:Kohei Kawaguchi1, Rie Takei-Hoshi1, Ikue Yoshikawa1, Keiji Nishida2, Makoto Kobayashi3, Miyako Kusano3,4, Yu Lu4, Tohru Ariizumi4, Hiroshi Ezura4, ShungoOtagaki1, Shogo Matsumoto1, Katsuhiro Shiratake1(所属:名古屋大学 1,神戸大学2,理化学研究所 3,筑波大学 4)
DOI:10.1038/s41598-021-00966-4
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-021-00966-4

参照元

URL:https://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20211109_agr.pdf

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