米糠タンパク質濃縮物からの代替肉調製に成功 ~国内産原料からの代替肉製造による持続的な稲作の可能性~
山形大学 プレスリリース公開日:2022.10.06
本件のポイント
- 企業(株式会社サタケ)と共同開発したIP-EWT法により得られたアレルゲン・GMOフリー高濃度米タンパク質抽出物から調製された代替肉は、大豆タンパク質製造された代替肉と同様な微細構造、弾力性を有することが認められた。
- 米タンパク質、さらに、脱脂米糠から製造された代替肉は世界初。
- 本研究成果により、代替肉原料の選択肢が広がり、国内自給が可能で国内産原料で安心・安全な代替肉生産が期待される。
概要
山形大学学術研究院 渡辺昌規教授(バイオマス資源学)の研究チームは、株式会社サタケ(代表取締役社長:松本和久)との共同研究により開発した、米糠より米油を抽出する際に発生する副産物(脱脂米糠)から、高濃度・高栄養価・安全性の高い(アレルゲン・GMOフリー)米タンパク質を製造する技術(IP-EWT法)により得られたタンパク質を原料とした代替肉の開発に初めて成功しました。
肉などの動物タンパク質は、製造、輸送の過程で大量の温室効果ガスを発生するとともに、食肉輸入国は、家畜の飼育に必要とされる水資源をバーチャルウォーターとして世界中から搾取していると言われており、環境への負荷が危惧されています。これらを背景に、大豆などの植物タンパク質を原料とした代替肉及び代替肉加工品の開発・市場導入が世界規模で進められています。
研究チームは、本特許技術により得られるタンパク質が高濃度・固形状態で回収・精製されることに着目。米糠タンパク質を原料とした、代替肉(フェイクミート)の開発を目指し、本タンパク質の物理化学・栄養機能特性の解析、代替肉調製方法の確立を進めてきた。その結果、大豆タンパク質製造された代替肉と同様な微細構造、弾力性を示し、さらに、国内産原料で安心・安全な米糠由来タンパク質の代替肉への実用・事業化の可能性が示されました。
詳しくはこちらをご覧ください。
背景
上記、動物タンパク質の環境負荷問題に加え、米油製造現場において、原料(生糠)に対し、80%以上(重量ベース)に達する副産物として、大量の脱脂米糠が発生することから、これらの利活用は長年の課題となっていました。研究チームは、脱脂米糠に含有するタンパク質の利活用の促進を目指し、脱脂米糠からの効率的なタンパク質回収・精製技術である「米副産物のリン及びタンパク質の連続回収方法(特許第5819601号)」を開発。さらに、2015年、県内企業との共同研究により、パイロットプラント(原料)の設置。2018年は、上記特許技術に電解水洗浄を組み合わせたIP-EWT法を開発し、より高濃度・高収率米糠タンパク質生産技術を確立しました。本法の開発後、米糠タンパク質の有効利活用方法の一環として、代替肉、栄養補助食品(サプリメント)、食品添加物原材料としての適用性について研究を進めてきました。
研究手法・研究成果
代替肉の製造方法として、タンパク質を合成してタンパク質構造物を生成するボトムアップ(bottom-up)方式に対し、植物タンパク質などの既存タンパク質からタンパク質構造物を合成するトップダウン(top-down)方式は、原料・製造コストが低く、現在市販されている、大豆由来の代替肉は、このトップダウン方式により製造されています。そこで研究では、本技術(IP-EWT法)により生成された米糠タンパク質のトップダウン方式への適用性について、検討を行いました。3種類の親水コロイド(多糖質)を副原料とした代替肉の調製試験を行った結果、全ての代替肉サンプルにおいて、動物肉(牛、豚、鳥)の水分保持率を超える値を示すとともに、大豆タンパク質よりも吸油性が高いことから、水分と油脂の調和のとれた素材であることが確認されました。また、テクスチャー(硬さ、脆さ、弾力)解析の結果、米糠タンパク質は、大豆タンパク質と同様に、3種類の親水コロイド間で異なった特性を示し、多孔質構造を有するサンプルでは、より柔らかく、弾力を有する特徴を有することが明らかとなりました。これらの結果より、本法により生成された米糠タンパク質は、大豆タンパク質同様に代替肉原料として利用可能な植物タンパク質原料であることが明らかとなりました。
当該研究活動に対し、農芸化学研究企画賞(日本農芸化学会、2019年)、山形大学SDGs表彰(YU-SDGs Award)2021優秀賞、NEDO-TCP審査員特別賞(2022年)の各賞を受賞しています。
今後の展望
本技術の確立・事業展開により、従来の白米を生産する農業から、白米+タンパク質を生産する農業への転換により、収益性が高く、持続可能な稲作への転換が期待されます。また当該タンパク質の高齢者への効率的な供給により、サルコペニア(筋肉量低下)予防による、健康寿命と平均年齢の差の縮小に貢献したいと考えています。
参考動画
山形大学オープンイノベーション推進本部・研究シーズ紹介動画「FUTURE MAKER」
「お米を世界のタンパク質源に~未利用国内産米糖を活用した米タンパク質の製造~」
https://www.youtube.com/watch?v=XlsNes0g078
用語解説
1.代替肉:模造肉、フェイクミート、ミートアナログとも呼ばれ、植物由来タンパク質を原料とした肉に近い食味・食感を有する肉様食品。
2.アレルゲン:アレルギー症状を発生するタンパク質(抗原)を示す。食物アレルギー症状を引き起こすことが明らかな食品のうち、特に発症数、重篤度から換算して表示する必要性の高いものとして、特定7品目(卵、乳、小麦、えび、かに、落花生、そば)が挙げられ、表示義務化されている。
3.GMO:遺伝子組み換え農作物(GMO:genetically modified organism)と呼ばれ、ある生物から有用な遺伝子を取り出し、別の生物の遺伝子に挿入することによって開発された作物で、大豆、トウモロコシなどがある。生物多様性やアレルギー症状発症などに対する懸念や意見がある。
4.サルコペニア:加齢による筋肉量の減少および筋力の低下により発生する疾病の総称。