《5杯目》缶入り”Sex on the Beach”!?

「RTD=Ready to Drink」と呼ばれる飲料カテゴリーがいま飲料界でアツい。読んで字の如く開栓開缶と同時に飲めてしまう「出来合い」の飲み物をさす。私は味覚嗅覚(味香り)もさることながら視覚触覚聴覚にこだわってなんぼ!で酒をたしなむうるさ型なので、実はこういうのははっきり言って好きではない。開けたらそこからすぐにカクテルが現れてしまう?しかもグラスにも注がずにそのまま口へ?なんとまぁ色気もヘッタクレもない(嘆息)

しかも、RTDといえばほとんどが缶入り。缶は3Dオブジェクト(のはず)だが、瓶に比べると遥かに2Dに近い平坦な、大量生産によるブツである。少なくとも瓶であれば、形状に擬人性すら持たせて個性を放つことができる。しかし、RTDといえば缶。昨今これが大きく伸びている。若者は酒を飲まなくなったとか、酔うこと自体を忌避するようになったとか、度数が高いのは敬遠されるとか、まぁ傾向分析が色々あるものの、このカテゴリーの生産量消費量の伸びは実は半端ない。 統計を持ち出すまでもなく、コンビニやスーパーの飲料棚がこのところにぎやかになっていることに気づいている朋輩も少なからずいらっしゃるに違いない。

背景にあることはわかる。万人1日24時間しかないのにいつも忙しい。コロナ禍で外出や外食に制限がかかった。シュパっと開けそのまま口をつけて一気に味わえる手軽さは何にも代えがたい。缶なら手軽に多種多様の飲み物を試すことができる。まったりな「おうちごはん」を楽しませてくれる。日本だとRTDは酎ハイ系が多いから、カクテルというような洒落たもんじゃない、とかとか。

「だが」である。納得いかない。そりゃそうでしょう。カクテルとは、何も混ぜ合わせさえすればいいというものではない。強い緑色ミントの葉が載ってこそのモヒート、グラスに粒の粗塩でびっしり縁どらせて浅いグラスに漂ってこそのマルガリータ、グラスの底辺にだけほのかな赤を忍ばせたシャーリーテンプルでなければその名が泣く。私があがめる究極のカクテル「ドライマティーニ」に至ってはピックに刺されたオリーブの実がマティーニグラスに45度角で入っていない限り、マティーニと呼んではいけないのだ。曲芸さながらのバーテンダーがボトルやシェーカーを投げんばかりに振りまくってカクテル作りをするビーチで海開きの夕べに男女を誘うためにフロリダで考案され、80-90年代に流行った甘口の「Sex on the Beach」なんかが缶で目の前に現れようものなら、文字通り「興醒め」る。でも既に海外では売られている(内心:嘘だろー)。

コロナ禍が少しでも収まったら、皆さん悪夢から目覚めて(笑)オーセンティックな飲み物と呑み方をたしなみにバーに出かけましょう。私、喜んで御伴いたします。