《1杯目》ジン呑みの楽しみ
何かモノ言う機会がある時、酒飲みの私は「クラフトジンが熱い」と言う。でも、スマホ文化の光速で情報の飛びまくる世界では日本のジン文化の伝播はいま既にプライムを迎えつつある。
ジンに限らず日本人の最高の特性の一つが、世界に冠たる飲食に対する類まれなる精魂の込め様であろう。素材、味、香り、料理、楽しみ方のすべてがとにかく豊か。「フードテック」などといった呼称でたった今出現したかのような新現象が世界を席巻するが、実は日本には古来から食(材料)を愛で慈しみ、技をもって磨き、そして感謝を込めて「いただく」という滅法強い文化背景がある。世界に負けるはずなどない。
ジンは(諸説あるが)オランダあたりで1世紀ほど前に産声を上げた酒類。ここにきて少量生産のクラフトジンに火が付いた。一昔前に大量生産型ビールに対して、地ビール(クラフトビール)がブームになったのと構図は似ている。だが、地ビールが日本の巨大ビールメーカーに対抗して認識されるまでには20年も要してしまったのに比べると、ジンは全然速度が違う。そしてバラエティが違う。それはやはり、日本がどれだけ豊かな味と香りの文化を持ち醸成してきたかを物語るからこそのブームではないだろうか。
ベースとなるリカーは、本家本元の欧州では麦類・ジャガイモ由来だ。日本では米。焼酎メーカーが手掛けるジンの場合はさつま芋。ベースの違いもジンの味の繊細さに影響する。
ジンの定義そのものがジュニパーベリー(針葉樹に成る青い実を乾燥させたもの)を浸して香りづけした蒸留酒なのだが、この種々の素材(ボタニカル)による多様な香りづけが百花繚乱の勢いというのが今の日本だ。まずは柑橘類。温州みかん、柚子、金柑、夏みかん、八朔、日向夏、等々、日本には優に100種はある。針葉樹もスギ、ヒノキ、槇、クロモジ、他にも緑茶や山椒やシイタケ、とても書ききれない量と質のボタニカルが無尽蔵な日本なのである。
ウィスキーが日本で生産され始めて百年の時を経た今、超プレミアム価格でしか入手できないほどに「made in Japan」のウィスキーが世界で熱い。ジャパニーズクラフトジンにもその日がきっとくる。これはもう確信だ。だから今夜も、ジンを寝酒にgood night!