海外マーケットのさらなる開拓にチャレンジする菊水酒造

イノベーティブなプロジェクトをリポート


1881年に新潟県新発田市で創業した菊水酒造。 ロサンゼルスにアメリカ法人を設立したのが2010年。今や海外で日本酒の販売に力を入れる蔵元は急増しているが、地酒の蔵元で海外マーケット開拓を目的にした現地法人を設立したのは菊水酒造が日本初である。
今回は、いち早く海外販売戦略に舵を切った菊水酒造の取り組みをリポートする。

11年連続で日本酒は輸出拡大

日本酒業界最大の団体で、全国1691の蔵元が所属する日本酒造組合中央会は、2020年度の清酒輸出総額を発表した。
それによると、コロナ禍でレストラン等での飲酒の機会は減少したものの、海外においても家飲み需要が増加し、日本酒人気は高く総額で約241億円を売り上げた。金額・量ともに長年にわたり首位を守ってきたアメリカが2020年はじめて金額で1位の座を香港に譲り渡した。数量においては、アメリカが変わらず1位となっている。

「缶入り」生酒でアメリカ進出

累計販売3億本を突破した菊水酒造のロングセラー商品 缶入り生酒“ふなぐち菊水一番しぼり”。火入れ(加熱処理)していない生酒は、おかれた環境によって味が変わりやすく、元来、蔵への来訪者にだけ提供出来た貴重な酒であった。
1972年、3年の研究開発期間を経てこの生酒がおいしく味わえる特殊なアルミ缶(容量200ミリリットル)が誕生した。この缶入りの生酒にアメリカのあるレストランが興味をもったことがきっかけで、アメリカ進出が始まった。

2010年菊水USA設立

2000年以降、アメリカでの売上は順調に伸びていく。一方で「原材料は?」「飲み方は?」等々、日本酒を飲み慣れない人達からの様々な質問に丁寧に答えなければ、市場の伸びは期待できないと判断。現地の飲食店や酒販店とより良い関係を築きアメリカ市場に日本酒の魅力を伝えていきたいと、2010年に「KIKUSUI SAKE USA.INC」を設立する。
現在は、現地採用の社員を含め4名のメンバーが、菊水ブランドを全米に伝えている。菊水酒造の日本酒を取り扱っているレストランやスーパーなどは全米で約5000を超える。そのほとんどが高級レストランや高級スーパーだ。菊水酒造 研究開発部 執行役員の宮尾俊輔さんは「同じアメリカでも東海岸と西海岸では嗜好が異なり、カリフォルニアなどの西海岸では“菊水純米吟醸”が人気です。一方、ニューヨークを中心にした東海岸では“ふなぐち”が人気。缶入りの日本酒は、はじめのうちこそ「安っぽい」と敬遠されていましたが、気軽に飲めるスタイルがうけ、今では「缶のまま飲むのがクール」と言われその人気は定着しています。」と語る。

イベント出展の様子

ミッションは、日本酒という「文化」を伝えること。

菊水酒造が大切にしているのは、単に商品を販売するのではなく、日本酒という「文化」を伝えていくこと。その為に、海外のディストリビューターや飲食店向けに「日本酒研修」を展開している。まずは、気軽においしく日本酒を飲んでもらいたいと、「原酒」や「生酒」などの専門用語は英語で丁寧に解説したり、「KIKUSUI」フアンになってもらう為に年間60回ほど開催している試飲イベントのようなお客様と直接触れ合う機会を大事にし、今後はさらに増やしていく予定だという。

日本酒の味を見える化し、ペアリング情報も提供

菊水酒造では、味分析の専門機関である株式会社味香り戦略研究所の協力のもと、日本酒の味覚分析調査やマリアージュ理論構築を行っている。
「海外では文字で説明するより直感的に理解できるグラフ化・ビジュアル化した味覚情報を提供することが、消費者が商品を選ぶうえで大変役に立っています。“ふなぐち”は濃厚な味わいだから、アメリカではピザやステーキに合います。サンフランシスコの有名なハンバーガー店では、ハンバーガーとの組み合わせが人気です。このように、お酒と料理・つまみとのペアリング情報発信も売上拡大には欠かせないこととして積極的に取り組んでいます。」と宮尾さんは語る。

商品パッケージに味を見える化したグラフを掲載

世界23ヶ国に日本酒を輸出

ここ数年、アジアでも日本酒ブームがおきている。菊水酒造は、タイを拠点にASEAN各国への輸出を加速させている。
「タイの和食店は素材も日本から直送されるので、日本の味そのもの。その結果、辛口タイプの酒に人気が集まっています。」と宮尾さん。
今後もグローバルに海外展開を推進する為には、マーケティングをしっかりと行い、ターゲットに合った商品展開が欠かせないという。今や世界23ヶ国に菊水酒造は日本酒を輸出し、その売り上げは、全体の10%を超えるほどになった。来年“ふなぐち”は、誕生50周年を迎える。新潟の地酒酒造メーカー菊水酒造の「海外に日本酒文化の魅力を伝える」というチャレンジからこれからも目が離せない。

菊水酒造株式会社https://www.kikusui-sake.com/home/jp/