東京家政大学・大学院 峯木眞知子教授

日を増すごとに活発になる「食を科学する」取り組み。この視点で色んな研究室を紹介する。


食のエビデンスをより身近に、一般の人でも興味が沸き、理解しやすいをテーマに東京家政大学・大学院の峯木教授にインタビューをさせていただきました。峯木先生は数々の応用調理学の研究をされてきましたが、電子顕微鏡による食品構造の解明や鶏卵、最近では分子ガストロノミーの世界でも多用されている介護食用のエスプーマ食なども研究されています。

(インタビュー・文:味香り戦略研究所 主席研究員 髙橋貴洋)

東京家政大学・大学院 教授 峯木眞知子(みねき・まちこ)氏

―月並みですが、峯木先生の研究を続けるきっかけというものは何でしょうか?

「大学卒業後、調理学研究室助手として勤務し、授業を通じて、調理技術のエビデンスに疑問を持つことが多かったのです。その疑問を解く方法として、当時は化学成分分析が多く用いられていました。」

―現在の分析機器の精度や迅速・微量分析の手法はすごいですよね。昔の論文を閲覧すると機器の性能を補うために工夫があり、前処理の煩雑さ・緻密さを論文で目にしますね。

「それなので今、分析しなおすと新しい発見もあると思いますよ。例えば鶏卵を食べるとコレステロールを上げるという認識でしたが、いまでは健康な人であれば、卵を食べても血中のコレステロール濃度はほとんど変化しないことがわかっています。この常識は、ウサギにコレステロールを摂取させたところ、アテロール性動脈硬化を発症した結果よりでています。ウサギの餌を考えますと、元のエビデンスに問題がありました。」

―確かに今まで野菜類などはグルタミン酸などが注目されていましたが、その野菜から核酸系うま味のグアニル酸が検出できたりしてますね。また栄養成分表の数値も改訂で変化して話題になります。

「そうですね。昔の野菜と今の野菜では品種や生育、季候、それを分析する手法も現代とは異なります。食材の変化だけでなく、調理による変化を考えることが必要です。そのように気づくには普段から何気ないことにも疑問を持つことが大事で、それが実験のアイデアになります。食品について学ぶ学生は、単に資格を取得するだけでなく、それをいかに活用して、専門性に活かすかという気持ちを普段より大事にして欲しいと思っています。」

―いままでやってきた実験の中で特別面白い発見などはありましたか?

「調理加工に伴って、食品の重量変化が大きいことから、成分分析という方法ではなく、だれでも理解しやすい方法はないのかと考えていました。それが顕微鏡で見て、視覚的に理解するという方法です。数値ではなく、画像で見ますと、興味のわき方が違ってきます。」

―“見た目”で証明できるのはエビデンスとして強いですよね。学生の時、化学合成をやっていましたが、1H NMRで作った化合物の構造を予測するのですが、担当教授にお前はその構造を見てきたのかとよく言われたことがトラウマです(笑)。

「先生によく鍛えられましたね(笑)。構造分析は、食品の物理的特性との関連している構造的特徴を可視化し、だれにでもその食品の変化を理解しやすくします。調理科学的研究は、おいしさを知る研究でもありますが、「おいしいものの構造は美しい」と組織観察している研究者の皆が感じていることです。このことは構造がおいしさに深く関連していることを示しています。」

―“おいしいものの構造は美しい”ですか。天然の食材でこれぞというものはありますか?

「私の研究の中で特に大発見であったのが、鶏卵の「卵黄球」です。卵黄の構造を見ると球体ではなく、多面体の構造物、つまりフラクタル構造をした卵黄球がぎっしり詰まっていて、それが卵黄を形成しているのです。卵黄の大きさに関連して卵黄球も大きくなります。その数はというと、卵黄1個でおよそ180万個あることがわかりました。そこで、卵の大きさが違うウズラやアヒル、ダチョウの卵も観察しましたが、卵黄球の大きさはほぼ同じ大きさだったんです。」

ゆで卵黄身に詰まっている多面体の卵黄球

―すごい!そうなんですね!

「卵黄の主な卵黄球の数が一定数で、卵黄の形と卵黄球の形が関連しているのは、一般の方は驚いて興味を示してくれるのですが、調理学の視点だと味や栄養・調理特性などに重きがあるので、新しい知見という意味で論文掲載はなかなか難しかったです(笑)。目玉焼きを作るときに、フライパンの上から卵を落下させると、その間に卵黄球の形が壊れてしまうことが観察できます。低い位置で卵を割って、そっとフライパンにおくと、フラクタル構造を壊さないまま焼くことができるんです。ですので、高さのあるふっくらした目玉焼きには、そっと卵を置いてください。」

上からの落とし方の違いによる目玉焼きとその卵黄の構造(クリオスタット切片、トルイジン青染色)
S:卵黄球 左:卵黄球の形状不明瞭か球状 右:多面形

「現在では卓上SEM※1が開発され、簡単に誰でも使えますので、卒論はじめ大学院生も構造を見るようになりました。今、研究しているのは、酵母の違いによるパンの気泡やエスプーマの気泡の状態です。気泡は、画像解析にかけ、気泡の大きさ、形状や量を調べることで、密度や体積の関係やテクスチャーの関係を知ることができます。また、ラーメンを加熱による体積の差異で調べるのに、体積計やノギスではなく、SEM※1を用いて断面層より計測するという方法もできました。」

※1.SEM:Scanning Electron Microscope、走査電子顕微鏡

エスプーマの機械
鮭のみそクリーム煮のエスプーマ 左:走査型電子顕微鏡像 右:外観

―経時的に変わる泡を見るというのも今の技術があってこそかもしれませんね。最後に、食の未来や動向などについてお聞かせ願えますか?

「十数年前から食の流れの雰囲気が変わってきたなと感じています。例えば、日本の“生で食べられる鶏卵”のブランド力は海外、特にアジアには魅力的で、高価な値段で引き合いがあります。また、ピータンやシエンタン(塩漬け卵)を日本で作り、中国に輸出しようという話もありました。日本食ブームもそうですね。栄養学や調理科学の発展はもとより、誰にでも理解しやすい“食事学”が広まり、日本の食の素晴らしさを再確認することが必要かもしれません。安全安心は当然ですが、栄養的にも健康につながり、しかもおいしい食事の食べ方までを視野に入れる時代が来たように思います。」

―日々の生活の中から疑問に思い、考え、研究し、食を学問にし、後世に伝える。これぞ生きるための家政学という感じがしますね。峯木先生、本日はありがとうございました。

《PROFILE》

峯木 眞知子先生
Machiko Mineki

(専門分野)調理科学、応用栄養学
(職歴)平成30年4月東京家政大学家政学部栄養学科教授・副学長、令和3年4月東京家政大学大学院タマゴのおいしさ研究所特命教授(現在に至る)
東洋水産株式会社社外取締役(現在に至る)
(資格)博士(農学)、管理栄養士、専門官能評価士
(受賞歴)日本調理科学会学会賞、日本家政学会学会賞受賞
(社会活動・役員歴)日本家政学会本部理事、日本調理科学会本部理事・監事 日本官能評価学会副会長・現評議員、伝統食品研究会理事・監事、タマゴ科学研究会理事(平成24年~現在)、等

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