川村学園女子大学 生活創造学部 生活文化学科 築舘香澄准教授

日を増すごとに活発になる「食を科学する」取り組み。この視点で色んな研究室を紹介する。


今回は前回ご紹介した元大妻女子大学大森正司教授の研究室で助手をされていた、築舘香澄先生の研究室にご訪問しました。築舘先生は大森先生と同じく、お茶の研究をされています。
今、流行のノンアルコールペアリングでも活躍する茶を用いたティーペアリングの研究についてお聞きしました。

(インタビュー・文:味香り戦略研究所 髙橋貴洋)

川村学園女子大学 生活創造学部 生活文化学科 准教授 築舘香澄(つきだて・かすみ)氏
川村学園女子大学 生活創造学部 生活文化学科 准教授 築舘香澄(つきだて・かすみ)氏

―お茶に関する研究のきっかけは何だったのですか?

「大学では研究室に入らなくてもよい学部だったのですが、大学1年生の講義の頃から大森先生は研究室に入ったほうがいいよと仰っていました。先生の授業が好きであったのもあり、大森研に入ったのですが、私自身は茶の研究をしていたわけではありませんでした。」

「その後、大森研の助手に就くことになりすべてがお茶に変わりました(笑)先生のお手伝いは研究をはじめ、先生への取材の電話や会議、日本・世界各地の現地視察など全てお茶・お茶・お茶なのです(笑)いざ先生が退官されるときにお茶に詳しい自分がそこにおり、ティーペアリングを科学的に研究出来ないかという話をきっかけに、現在の川村学園女子大学で研究を始めました。」

―ティーペアリングの研究について教えてください。

「ティーペアリングの研究の手始めに簡単な実験系を試してみました。シンプルな食べ物に梅干しおにぎりを用意し、それと緑茶・紅茶にあう、あわないを学生と共に官能評価をしてみました。すると意外な結果が。普段から食事中に紅茶を飲んでいる人はおにぎりと紅茶が合う、紅茶を飲み慣れていない人は、おにぎりにはやっぱり緑茶が合うよね、と言ったのです。つまり”普段の食の嗜好がペアリングの合う・合わない”に寄与していることが予想されたのです。」

「これは非常に興味深いのですが、人間の判断基準の「好き・嫌い」を排除して実験し、論じないとならず、一筋縄ではいかないということが分かりました。逆に、研究する意味合いも同時に強くなりました。」

―ヒトで言えば芸能人が結婚したときに良い意見・悪い意見が生まれると思いますが、それは自分の持っている情報(嗜好)からの判断であり、客観的に判断する指標、パターンで評価するのが科学的な研究ということですね。

「そうですね。ただ、「ほうじ茶にはコレ!」というようなある一定の意見があるのも見逃せません。これは本当かどうか?」

「そこで、世の中の公開されているティーペアリングをWEB検索でまとめています。例えば紅茶では「ニルギリ(やさしいまろやかな風味であることが多い)だったら野菜」、「キームン(独特の燻製香のある茶葉)だったらお肉」という情報を集めていきます。まだ研究段階ですが、思ったより統一の取れた見解が見えないという傾向です。これは梅干しのおにぎりの実験のように、嗜好性が関与している可能性もあります。」

「そのため料理の調理法によるペアリングの変化、調味料によるペアリングの変化などを評価するには味覚センサー用いることが必要でした。嗜好性を排除した客観的なデータが取れますので、そこに何らかのパターンをみつけることでペアリングの糸口を探っています。」

―研究をされる中で、発見されたことなどを教えてください。

「ヒトがペアリング評価をする際の工夫も必要です。ペアリングの先行研究を参考に、ペアリングの13パターン(ウォッシュ効果やサプリメント(味を補う)効果などのパターン)を設定し独自の判定基準を決めて研究しています。例えばどういうときにウォッシュ効果があるか判定するために「お茶の渋みなどで口内が収れんしスッキリとする」などの定義をしています。」

「実際にこれを適用すると食事の方がとても甘い場合、お茶の方に渋み・酸味のある碁石茶などを添えると、甘味が酸味で洗い流され、ウォッシュ効果のペアリングが生まれます。ただこのペアリング方法も”食事またはお茶に特徴がないとペアリングが生まれにくい”という側面があることがわかってきました。ペットボトルのような比較的飲みやすい濃度に調整されたものは何にでも合わせやすく、裏を返せばペアリングが生まれにくいということになります。」

―最後に、茶の未来についてお聞かせください。

「ティーペアリングも流行が終わったらいずれ廃れてしまいます。そこに科学的な裏付けを持たせることで後世に残していきたいと思っています。最近はペアリングにも使われるワインボトル入りの高価格帯の茶があり、大量生産ではない特別な茶の側面を消費者に知ってもらい、お茶を守ろうとする新しい茶業界の挑戦もあります。また茶殻には栄養素が多く残されており、その再利用なども栄養学的に研究し、社会に貢献出来たらと思っています。」

―本日はありがとうございました。

川村学園女子大学研究室にて、築舘先生と

《PROFILE》

築舘 香澄先生
Kasumi Tsukidate

川村学園女子大学生活創造学部生活文化学科准教授。

大妻女子大学大学院人間文化研究科人間生活科学専攻博士課程修了 博士(生活科学)
管理栄養士、日本茶インストラクター、ティーインストラクター、アクアソムリエの免許・資格を有する。
専門は食生活学、食品学。著書に、茶の事典(朝倉書店)がある。